これまでのあゆみ

演奏会詳細

第11回定期演奏会

日時 2007年9月17日(月・祝) 14:00開演
会場 三鷹市芸術文化センター 風のホール
曲目 シューベルト/交響曲第3番 ニ長調
ワーグナー/ジークフリート牧歌
ベートーヴェン/交響曲第8番 ヘ長調 作品93
アンコール: ベートーヴェン/バレエ音楽《プロメテウスの創造物》序曲

曲目解説

シューベルト/交響曲第3番 ニ長調< br /> 芸術家の中には、生涯を貧しさの中で終える者が少なくありません。シューベルトの31年という短い生涯も貧乏と常に隣り合わせでした。
シューベルトは5人兄弟の末弟で、子供の頃から社交好きで周囲に愛されたといわれています。ただ家庭の経済状況は厳しく、教師だった父親は息子には儲からない音楽家よりも堅実な教職の食い扶持をと、全寮制で学費不要の国立神学校(コンヴィクト)へ入学させようと考えます。既にヒテンタール教会の合唱団で神がかりの歌唱力を開花させていたシューベルトは、試験科目の音楽で作曲家サリエリを驚嘆させ、首尾よく11歳でコンヴィクトに入学を果たします。そこでは父親の干渉から離れて、むしろ学科そっちのけでいっそう音楽に没頭したのでした。
ところが、15歳で変声し合唱団で歌えなくなると翌年にはコンヴィクトを退学。"教師は兵役免除"という特典を目当てに、結局父親が勤める学校で安月給の助手として働き始めます。  交響曲第3番は、シューベルトが19歳で教壇に立っていた頃の作品です。作曲された1815年は彼にとって多作の年で、1年間に189曲もの作品を書いています。教師として働く傍らで作曲していたことを考えると、驚異的な数字です。
シューベルトが交響曲を正式に公表したのは、第4番「悲劇的」(1816年)以降と言われます。第1番(1813年)と第2番(1815年)はコンヴィクトのアマチュア楽団のために、第3番はホームコンサートなどで演奏することを目的に書かれました。そのためか、概ねシンフォニックな作風が多い彼の交響曲の中でもひときわ室内楽的な掛け合いに満ち、演奏時間も20分程度と小規模な作品となっています 。
第1楽章:壮麗な序奏を経て、快活なアレグロ・コン・ブリオに至ります。木管と弦の対話、一瞬の暗黙と雲間に覗く陽光のように鮮やかな転調の妙は、既にシューベルトの作風を色濃く呈しています。
第2楽章:通例は緩徐楽章であるところが軽快なアレグレット。中間部の明るく穏やかなクラリネットのメロディは彼の歌曲を思わせます。
第3楽章:メヌエットでありながらヴィヴァーチェという快速のテンポ指示。これは、敬愛するベートーヴェンが第3楽章に置いたスケルツォの影響とみられます。
第4楽章:プレスト・ヴィヴァーチェで疾走する景気の良い楽章。転調はいっそう巧妙に、大胆なクレッシェンドと活き活きしたリズムが明快なフィナーレを導きます。(チェロ・S)

ワーグナー/ジークフリート牧歌
1870年12月25日、つまりはワーグナーの妻コジマの誕生日。その朝、ベッドの中の彼女は階下から聴こえてくる音楽によって目覚めた。美しく、穏やかで、愛に満ちた平和な響きーワーグナー指揮の下、彼女の寝室へと続く階段に並んだ15人の友人たちによって奏でられたその音楽こそ、「ジークフリート牧歌」であった。この作品は、ワーグナーからの、前年に長男を生んだ妻への感謝とねぎらいと愛を込めて、この日のために入念に密かに準備された誕生日プレゼントだったのである。こんな素敵な贈り物を得た女性はそうはいない。彼女の喜びはいかばかりであったろうーというのが「ジークフリート牧歌」の感動的な初演エピソードですが、なかなか実際はそう単純ではありません。大作曲家リストの娘であるコジマとワーグナーが熱烈に恋に落ち、二人の間に長女が生まれたのが1865年。その時ワーグナーには別居中の正妻が、コジマにはワーグナーの支持者である指揮者ビューローという夫がいたのです。66年に正妻が没すると二人は同棲を始め、67年に次女、69年に長男が誕生し、70年7月にコジマが正式に離婚すると二人は 8月に結婚。そして冒頭のエピソードへ、というわけです。昼ドラ以上の愛憎劇か、愛を貫いたラヴ・ストーリーか。
この作品、原題は「フィーディー(長男ジークフリートの愛称)の鳥の歌とオレンジの日の出をもったトリープシェン(この時の居住地)牧歌」という者で、こちらの方がより作品の内容を伝えているように思えます。
静かな弦合奏による導入部に微かに現れつつ改めて第1ヴァイオリンに奏でられる旋律、これが最も主要なテーマとなります。続いてフルートをはじめ木管に現れる下降形の旋律も覚えておいてください。ひとしきり盛り上がった音楽が静まると、オーボエに子守歌のような可愛らしい旋律が登場。最初のテーマも聴こえます。弦楽器が分散和音で幻想的な雰囲気を醸し出すと、曲は3拍子に変化。新しい動機が繰り返されると、オーボエに最初のテーマが。次第に熱を帯びて強奏から急激に音が下降すると、再び4拍子に。ホルンが明るく動きのある旋律を奏で、その上でフルートやクラリネットの鳥の声が遊びます。音楽が強さを増すと、トランペットの登場。全曲中で最も華やかなこの場面は、これまでに現れた多くの旋律が見事に絡み合って構成されています。急激に曲が静まると前半の再現をしつつコーダへ。次第に静けさを増して曲を締めくくるここには、温かな家族への愛が確かに聴かれます。作曲の現実がどうであれ、音楽の美しさ、人を愛する想いは、どうやら普遍的なものだと改めて感じさせてくれる作品です。(ファゴット・A)

ベートーヴェン/交響曲第8番 ヘ長調 作品93
「田園」において当時ではまだ革新的であった標題音楽への試みを行ったベートーヴェンでしたが、第7・8交響曲では古典派の様式美を再び採り入れました。初演はナポレオン帝国崩壊直前の1814年に行われました。
第1楽章:序奏なしでいきなり第1主題が提示されます。イ長調の第2主題は途中でテンポが緩められ印象的です。メトロノーム愛用者(テンポ死守!)の彼にしては稀です。主題提示の次は楽聖お得意の展開です。彼の交響曲では毎度お馴染みのスフォルツァート(アクセントを加えて)の嵐でございます。楽員達は譜面を見るだけで気分が滅入りそうになります。盛り上がりの頂点で低音楽器によって再現される第1主題は感動的ですが、最強部直後間をおかずに「弱く柔和に」木管楽器に同主題を演奏させるのは容赦ないです。こんなオーケストレーションから察するに、ルートヴィヒ君は怒ったり喜んだりといった感情を自分では意識せずに突然切り替えてしまう人だったのかもしれません。そんなこんなで盛り上がりが最高潮に達したかと思いきや、第1主題冒頭句が弦楽器により静かに斉奏されてこの楽章は終了。あーくたびれたー。
第2楽章:通常では緩徐楽章となるところですが、速めのテンポで指定されています。指揮者と言う調整請負人のいない当楽団はどれだけ作曲者の意図を再現できるでしょうか?
第3楽章:ベートーヴェンの交響曲では「スケッルツォ」となることが多いのですが、古典派様式らしくメヌエット(宮廷舞曲)なこの楽章。でも宮廷におはすような「いとやんごとなき際」の方に献呈されていない唯一の交響曲であったりするのは皮肉?
第4楽章:冒頭のタタタタタタ(速い!)タラタンタラタンタラタンのリズムが全曲を支配します。弱奏で主題を提示したあと、実音ド#の斉奏が同じ主題の強奏を導きます。このパターンは後にもありますので要チェックです。相も変わらず強弱が突然に入れ替わる様は、ベートーヴェン研究で著名なロマン・ロランの主著「ジャン・クリストフ」における主人公クリストフの喜怒の変化をも彷彿とさせます。結尾部はお約束の執拗な打音連発により奏者の気力と体力を奪い尽くしたところでようやく曲が終えられます。
私たちの演奏によりわずかでも「ベト8」にご興味をお持ち頂ければ、これ以上の喜びはございません。ごゆっくりお楽しみ頂ければ幸いです。(ホルン・M)

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