これまでのあゆみ

演奏会詳細

第10回定期演奏会

日時 2006年9月18日(月・祝) 14:00開演
会場 三鷹市芸術文化センター 風のホール
独奏 金田幸男(元NHK交響楽団第1ヴァイオリン奏者)
曲目 シューマン/序奏,スケルツォとフィナーレ 作品52
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ブラームス/交響曲第3番 ヘ長調 作品90
アンコール:モーツァルト/歌劇《魔笛》序曲 KV620

曲目解説

シューマン/序奏,スケルツォとフィナーレ 作品52
シューマンがこの曲を完成させたのは、「交響曲の年」と呼ばれる1841年、クララ・ヴィークとの長年の大恋愛を成就させて結婚した翌年です。交響曲第1 番「春」の初演の成功の勢いにも乗って、この魅力的な組曲は約1ヶ月という短期間で作曲されました。彼自身も「大変に喜ばしい気分のときに作曲した」と述べていたとのこと。
幸せな時期だったこともあってか、晩年近くの作品に見られるような深い屈折や葛藤といった暗い情念はあまり感じられず、全体的に爽やかな曲想に溢れています。とはいえ、渋いオーケストレーション、ロマンティックな旋律、同じパターンのリズムの執拗な繰り返し、対位法的な声部の絡み合いなどなど、随所に感じられるシューマンらしさ。非常に魅力的な「小交響曲」です。
残念ながら、シューマンの他のオーケストラ作品に比べると演奏頻度は低いようです。3つの楽章はそれぞれ単独曲として演奏されても良いとされているようですが、今日は3つの楽章全て演奏します。
序曲:短いホ短調の序奏からすぐにホ長調の主部へ。主部は簡潔なソナタ形式で、弾むような第1主題と序奏のモチーフによる第2主題が展開され、最後はウン・ポコ・アニマートとテンポアップして華やかに結ばれます。
スケルツォ:シューマン特有の付点音符のリズムによるスケルツォ。三部形式をとり、短いトリオでは同じテンポでスケルツォのリズムはおかずに変ニ長調の旋律が歌われ、終結部ではこのトリオを回想した後に、序曲の第1主題が一瞬だけ顔を見せます。この楽章ではティンパニが使われていません。
フィナーレ:ソナタ形式による快活なフィナーレ。喜びあふれる第1主題と優雅な歌の第2主題がそれぞれヴァイオリンから示され、他の楽器へ引き継がれていきます。最後はそれぞれの主題が倍に引き伸ばされ、感動的な讃歌で全曲を締めくくります。

メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ベートーヴェン、ブラームスに並ぶ3大ヴァイオリン協奏曲のひとつとして、この曲は皆様もおそらくよくご存知ではないでしょうか。冒頭から流れ出す、ソロ・ヴァイオリンの憂いを含んだ美しい旋律は、メンデルスゾーンの名とともに末永く人々に記憶されるものでしょう。
メンデルスゾーンの作風は、やわらかいロマン的情緒と、古典主義的な均整のとれた形式美が特徴とされています。彼は、ユダヤ系の裕福な銀行家の家庭に生まれ育ち、幼少から多方面の芸術教育を受けて、高い才能を発揮しました。その決して長くない生涯のうちにも、おびただしい数の作品を遺しています。
この協奏曲について語る上で忘れてはならないのが、フェルディナント・ダヴィットの存在です。メンデルスゾーンがゲヴァントハウス管弦楽団の常任指揮者であったときに、そのコンサートマスターであり、また親友でもあったダヴィットは、メンデルスゾーンが作曲を進める際に、演奏者としての立場から多くの助言を与えたのでした。この作品がメンデルスゾーンの作風とともに、ヴァイオリンの特徴を存分に発揮したものとなっているのは、ダヴィットの功績によるものといえるでしょう。
第1楽章はソナタ形式で、弦楽器の分散和音にのってソロ・ヴァイオリンが有名な旋律とともに登場します。メンデルスゾーン自身の作曲によるカデンツァから、オーケストラが再現部を静かに演奏し始めるところは、この楽章の中でもとても美しいところです。
第2楽章は、三部形式で書かれた、叙情的で甘美な楽章です。オーケストラは、ソロ・ヴァイオリンの旋律に彩りを添えます。
第3楽章は、序奏から始まり、管楽器のファンファーレの後にソロ・ヴァイオリンの軽快な旋律が展開されます。終楽章にふさわしい華やかな楽章です。今回、ソリストとしてお迎えした金田先生とWCOの、息の合った演奏をお聴かせすることができれば幸いです。どうぞお楽しみください。(ヴァイオリン・H)

ブラームス/交響曲第3番 ヘ長調 作品90
「自由に、しかし楽しく(Frei, Aber Froh)」ブラームスが良く口にしていたというこの言葉、"自由"と"楽しく"が逆説で結ばれているのが気になるところ。それは、ブラームスならではの皮肉や人生観なのでしょうか。
各楽章ともあまり主題が展開・変奏されない簡素な作りが特徴で、室内楽の拡大版といった趣の交響曲第3番。第1楽章の冒頭、管楽器が響かせるファ-ラ♭- ファ(ドイツ音名でF-As-F)という上昇音階は上述の"Frei, Aber Froh"の頭文字と言われています。長調ならファ-ラ-ファとなるところ、ラを半音下げて短調を持ち込むあたりがブラームス。明るさの中にも一抹の寂しさを湛えるブラームス特有のワビサビは、この長調と短調のゆらぎやせめぎあいにあります。尚、このF-As-Fは基本動機として、調性や形を変えながら全曲に登場し続けるので、まず冒頭でチェックしてください。
さて、第1楽章、4分の6拍子。基本動機に続いて直ぐに第1主題が勢いよく登場。その伴奏の伸ばし音は基本動機。曲調が落ち着き、4分の9拍子に変わりクラリネットが吹く旋律が第2主題。その後6拍子に戻ると、演奏する方も聴いてる方も拍が分からなくなる拍子の迷路に突入、その勢いで展開部へ。基本動機が解決へと導くコーダが美しい。第2楽章4分の4拍子は素朴な歌。木管に応える中低弦が演奏するのは基本動機。ひとしきり盛り上がって静まるところにクラリネットとファゴットが吹く寂しい旋律、後で思わぬところで再会しますのでお忘れないきよう。むせび泣くチェロで始まる第3楽章8 分の3拍子。ほぼ旋律楽器の組み合わせと伴奏の変化のみでシンプル。中間部の木管の旋律と弦の旋律は、とらえどころのない不安感。静かに不気味に始まる第 4楽章2分の2拍子、第1主題に続くは第2楽章のあの旋律です。全体に激しい曲調で進行し、穏やかなコーダへ。基本動機がオーボエとホルンにはっきりと登場する場面は感動的。全体を締めくくるのはヴァイオリンのさざめきに変化した第1楽章の第1主題。闘争を経て勝利へ、ではなく、諦めた様な、何かを受け入れた様な平穏の中に響きが消えて終。(ファゴット・A)

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